本研究の目的は興奮伝播の非等方性や不均質性を容易にシミュレ-トできる新しいタイプの心臓モデルを構築することにあった。心臓内の全ての点に5個のパラメ-タ(心筋繊維の方向を表すために3個、繊維方向・直交方向への興奮伝播速度として2個)を指定するば興奮の伝播特性が決まる。そこで、心臓を四面体要素に分割し、これらのパラメ-タを四面体の各頂点で与え、四面体内での値は線形補間で求めることにした。このモデルでは興奮波面を十分細かく三角分割することによって興奮伝播をシミュレ-トする。三角分割の節点が微小時間後に何処まで移動するかを、各節点での興奮伝播特性と三角形の法線方向から計算するのである。 モデルを実現するには以下の問題を解決する必要があったが、実用上の障害とならない程度には解決できたと言える。その問題とは、(a)興奮波面の拡大・縮小に伴って三角分割のための節点を追加・削除しなければならないが、そのたびに必要となる三角分割の再編成を如何に効率化するか、(b)波面同士の衝突、心筋表面への到達によって消滅する三角形と残存する三角形との境界を如何に扱うか、(c)プルキニエ繊維は2次元状に分布し、脚などは一次元的だが、四面体分割された固有心筋との接続を如何に設定するか、などである。 開発したモデルの性能を評価するため、心室を322個の四面体要素に分割し(節点数は113)、速度楕円体の長軸を心室壁の接線方向に設定して興奮伝播をシミュレ-トした。長軸と短軸の比を何通りかに設定して非等方性の効果をしらべ、心尖部と心基部での伝播速度を変えて不均質性の効果を調べた。その結果、従来のユニット分割モデルに比べて心臓の分割が粗いにも関わらず、非等方性・不均質性ともに実用上十分な精度で表現できることが分かった。
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