研究概要 |
細胞周期においてcdc2/ヒストンH1キナ-ゼがG2/M期で活性化された後、染色体形成に至る過程はまだ不明である。本研究の目的は染色体の凝縮,脱凝縮および核形成の分子機構を明らかにするために,1)染色体の主要な構成蛋白であるヒストンH1の高度なリン酸化およびM期特異的H3のリン酸化の役割を明らかにすること、2)染色体の脱凝縮に欠陥がある温度感受性変異株細胞,tsTM13のヒストンのリン酸化を調べ、tsTM13細胞の異常要因を明らかにすることである。本年度は次のような点が明らかとなった。 1)TsTM13細胞では非許容温度(39°C)下で染色体が凝縮状態にある時、H1キナ-ゼ活性は許容温度の場合と比べ,数倍以上高く、H1,H3は著しくリン酸化されていた。H3のリン酸化サイトはM期の場合と同一(Ser10)であり、細胞抽出液内のSer/Thrー脱リン酸化酵素活性には異常はなかった。プロテインキナ-ゼの阻害剤であるスタウロスポリンやTyrー脱リン酸化酵素の阻害剤であるバナジン酸を処理すると、染色体脱凝縮,核形成が促進され、H1,H3が脱リン酸化された。これに対しSer/Thrー脱リン酸化酵素の阻害剤であるオカダ酸を処理すると、クロマチン凝縮が誘導され、H3のセリン10が強くリン酸化された。何れの場合もH3のリン酸化/脱リン酸化とクロマチンの凝縮/脱凝縮とが特異的に対応していた。これらの結果、tsTM13の異常はH1キナ-ゼの活性調節機構にあると考えられた。 2)すでに精製されているリン酸化酵素を用いて調べたところ、Aキナ-ゼおよびCa^<2+>/カルモデュリンキナ-ゼII(CaMPK2)がH3をリン酸化させることが分かった。ヒラ細胞の核抽出液からH3キナ-ゼの活性分画を分離した。無細胞系でH3ヲリン酸化させた結果、cdc2キナ-ゼおよびAキナ-ゼ特異的阻害ペプチドでは影響が少なく、CaMPK2阻害剤(Wー7)で最も強く阻害された。
|