研究概要 |
本研究では、双子葉植物の7種と塩生植物の3種およびコケ植物の3種の各培養細胞系を用いた。これらの培養細胞をMS培地に種々の濃度のNaClを加えた培地で培養して、それらの成長を比較した。その結果、ほとんどの培養細胞系が0.25%NaClを加えた培地でも成長したが、それ以上の濃度では成長が抑制された。ニンジン培養細胞は比較的にNaClに耐性があり、0.5%まではcontrolとほとんど同じ成長を示し、1%でも成長速度は若干落ちるものの、最終的にはcontrolと同じ成長量に達した。オオホウキゴケ培養細胞もNaClに耐性があり、1%でもcontrolと同様な成長を示した。また、タチゴケ培養細胞は0.25%でもまったく成長が抑制され、NaClにsensitiveであった。塩生植物のウラギク培養細胞は、0.5%NaClまでは耐性を示したが1%では成長が抑制された。このように植物体の状態で耐塩性を示す塩生植物が、培養細胞の状態では必ずしもその性質を保持しているとは限らないことがわかった。 次に、ヒゴシャクヤク(Kp86ー2)、ニンジン、フクハラオレンジ、ツルボ、ゼニゴケ(A18)、マルバハネゴケ(Plo)の各培養細胞について、浸透ストレス環境下における細胞中のタンパク質の変動について調ベた。それぞれの培養細胞を、0.08M,0.15MのNaClと0.16M,0.3Mのマンニト-ルで5回以上継代後、HPLCでタンパク質の変動を調べた。その結果、上記のようなストレスをかけると、タンパク質の組成に変動が見られ、それぞれの培養胞系で3つまたは4つの新たなタンパク質のピ-クが現れた。また、controlで存在したタンパク質の中のいくつかは、その量が増加した。Rt.5.1のピ-クは6系統全てに共通してタンパク質の量が増加した。ヒゴシャクヤク(Kp86ー2)に0.2Mまたは0.3Mマンニト-ルでストレスをかけると、いずれの場合もcontrolよりも薬用成分のpaeoniflorin生産量の上がることがわかった。 以上の成果をもとに、今後浸透ストレスにより変動するタンパク質やアミノ酸の同定およびこれらに関連する酵素タンパク質を分析し、浸透ストレスに適応する調節機構と遺伝子発現の関係を明かにしたい。
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