がん細胞の浸潤・転移における細胞間接着分子カドヘリンの関与を探るため、正常細胞株3Y1と、srcによりトランスフォ-ムしたsrc3Y1における細胞接着活性を比較した。これらの細胞をコラ-ゲンゲルの中で培養すると、3Y1は樹枝状の形態をもったコロニ-を形成し、その中で細胞は互いに接着しているが、src3Y1のコロニ-では、細胞が互いに密着せず、コロニ-周辺部において細胞が分散する傾向が観察された。src3Y1における接着性の変化が、カドヘリン発現の低下に基づくものであるかどうかを調べるために、これらの細胞にE型カドヘリンのcDNAをトランスフェクションし、この分子を過剰発現させた。これらの細胞をコラ-ゲンゲルの中で培養し、コロニ-を形成させ、細胞の脱離活性を調べると、カドヘリンの発現量がかなり増大しているにも関わらず、脱離活性には変化がなかった。すなわちsrc3Y1細胞では、カドヘリンを有効に利用できないなんらかの異常が生じていることが示唆された。つぎに、この細胞で起きている異常とは何かを探るため、カドヘリンと、これに結合しているカテニンに、チロシンリン酸化が起きていないかどうか、抗リン酸化チロシン抗体を用いて調べた。その結果、カテニンが強くリン酸化を受けていることが明らかになり、これがカドヘリンの機能に影響を与えていることが示唆された。
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