研究課題
本年度は当総合研究の最初の年であるので、各研究分担者はそれぞれのテ-マの解明に必要な研究書および史料を網羅的に収集しながら、問題点の所在を突きとめ、分析の焦点を明確に定めることをめざしたが、現在までにほぼ所期の目的を達成することができた。さらに、いくつかの分野では、新たに入手した文献によりながら理論史的アプロ-チと政治・社会史的アプロ-チを併せ試みることによって、市民の概念と実像との間の関連についての解明を進め、若干の重要な事実を発見することができた。すなわち、第一に、ヨ-ロッパ古典古代の都市国家、中世都市、近代国家のいずれの場合にも、法理論的に定義された市民と実際の市民権保持者との間には多かれ少なかれ著しい乖離が存在すること、また同一の時代においても市民の存在形態は国や地域によって極めて多様であること、第二に「国王の臣民」から「国家の市民」への転換が行われたヨ-ロッパ近代成立期においては、市民なる呼称が主権参与者としての本来の市民以外の人々にまで拡張される傾向が強まり(フランス革命期における参政権を欠く「受動市民」や「女性市民」の創出など)、その結果、市民なる語が多義的で時には相矛盾した意味をおびるにいたったこと、さらには、こうした事実のうちに、当該期の急進的政治指導者における民主的国家、社会樹立への逡巡が認められること、などである。以上、本年度の研究によってえられた成果は順次、学会誌などに発表して行く予定である。
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