研究概要 |
本研究の目的は,1970年代後半以降の先進資本主義諸国において現れつつある新たな調整様式の特徴を明らかにすることにある.本研究の分析視角は,第1章(山田鋭夫)で設定されている.第1に,戦後成長期をフォーディズムとして押さえ,第2に,1970年代中期以降は,このフォーディズムが解体し,異なる「国民的軌道」(アメリカ型,EC型,日本型)が競合しあう複数の調整様式の時代に入ったと理解すること,これが本研究を貫く視角である.こうした観点から,調整様式の変化の国内的側面に関しては,まず,第2章(平野泰朗)において,戦後日本の賃労働関係と経済成長との関連が分析された.そこでは,戦後日本で賃金調整を雇用調整よりも優先するという型のシェア・エコノミーが成立し,これを基礎にフォーディズム的成長が達成されたこと,このシステムは70年代の石油ショック等にきわめて弾力的に対応できたことが確認された.次に,第3章(柴田武男)では,70年代以降の高金利と規制緩和の影響を受けてS&Lが破綻していく過程が分析され,アメリカにおける市場志向的調整様式の構築の試みが成功しなかったことが明らかにされた.調整様式の変化の国際的側面に関しては,以下の分析がなされた.まず,金融的部面において,第4章(中尾茂夫)は,国際通貨形成の歴史を振り返り,ジャパンマネーのグローバル化の意味を探った.それによれば,円のグローバル化とは,円の決済機能を欠いた東京市場の拡大にすぎなかった.しかし,実物的部面をみれば,第5章(鳴瀬成洋)が示すように,北米,EC,東アジアという世界経済の三極圏構造が現れつつあり,そこにおいてフォーディズムからいち早く離脱した日本の位置がやはり重要である.以上から,新たな調整様式は,まだその全容を現していないが,それは戦後世界秩序のような単一基軸国のシステムではなく,単一基軸国なき複数の調整様式となろうと結論された.
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