研究概要 |
研究成果はまもなく出版される11欄の著書に収められるが,概要はつぎのとおりである。(1)調査対象のどの企業も,1980年以降,国家の政策的該導と労働組合の要求に応じて定年を60歳に延長した。(2)これとともに中高年層のますます多くの準内部労働市場の利用による出向という形での本社からの排除の傾向がある。(3)また旧定年年数以降,年功による処遇が停止される一般的傾向がある。(4)さらに在職年金受給を前提に60歳以後も再雇用制度により雇用を継続するケースもある。(5)以上,日本の大企業における伝統的な終身雇用のあり方がかなり変容しつつあると結論しうる。(6)欧米では,きびしい失業と合理化のなか,公的年金早期受給や失業保険,障害年金あるいは企業年金の利用による高齢者の早期退職の傾向がこの10年間進行している。この結果,福祉国家財政危機が進行しているだけでなく,厳格な機能分担にたつはずの福祉国家の論理が歪められ,「高齢」概念のあいまい化,多義化がもたらされている。(7)翻って日本では,旧定年時代は55歳での「退職」,60歳からの年金受給,その間の「自助」という機能分担であったものが,新定年のもとでは,「高齢」は出向とともに始まり,55歳で年功処遇から外され,60歳で雇用保障から放逐されるというものに変容した。さらに再雇用制度を考慮すれば,60歳とは段階的引退の一通過失にすぎなくなる。かく欧米とは逆のベクトルで,日本でも「高齢」概念の個別化・多義化のプロセスが進んでいるといえる。(8)年金支給開始年齢の65歳への引き上げ(60歳からの減額受給の選択肢を件なう)は,このプロセスをさらに推進するであろう。
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