出雲と沖縄のシャマニズムを比較分析する。美保神社の神事と沖縄のイザイホ-を中心に採り上げる。両者の祭祀組織は、前者は男子による組織であり、後者は女子による組織である。この男の祭りと女の祭りは男の文化と女の文化の姿を示しているといえることを明らかにしようとした。宗教はその文化の根底的核的なものを表出しているということに基づく。出雲の父系文化と沖縄の原初母系文化の存在を明らかにしようとしている。美保の祭祀組織の最下端の構成因子は頭屋である。そしてそれは美保の中の十六流の頭筋の家に属し、長男であることが条件である。役職者はかくて全員男子である。一方、久高島の場合は全ては神女であり、ここではイザイホ-神事に参加しうる有資格者ナンチュの条件は、島に生まれ、島にトハシルの香炉を持つ三十歳から四一歳の女性で、夫以外の男性と性的交渉がない者である。祭祀組織のメンバ-としてはノロ、根神、ウメ-ギ-など種々の役職がある。一、二の事務的仕事を除いて、全部女性によって構成されている。さらに今帰仁の祭りときに人々は上中下の三段に分かれる。最上位はノロと他の神女の席であり、中段は神女および女子の席であり、下段は男子の席である。男子は神々に最も遠いものであり、男子はウタキ(本土でいえば神社)を拝することは出来ないのである。また、沖縄全体に広がる結婚初期の母処婚の存在もこの母系の関わるものである。子供が二、三人までを妻の実家の裏座で過ごし、子供が学校に行くようになるときにニ-ビチと称し、父処婚に切り換える。さらに、沖縄と庵美も非常に細かい点まで強い類似を示している。これは、十七世紀初頭以来、一方は薩摩領、他方は琉球領に属するが、両者がミクロネシアの諸島と同じ母系の因子を共有している姿を示しているものと考えることもできる。
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