低エネルギー反陽子及び反ヘリウムの探索を目的とした、気球搭載伝導スペクトロメータによる宇宙線観測実験を1993年7月にカナダで行った。大型気球で観測装置を高度36.5km(残留大気量5g/cm^2)の上空へ打ち上げ、約14時間の宇宙線観測を行った。観測期間中、超伝導ソレノイドは1テスラの安定した磁場を維持し、飛跡検出器、飛行時間検出器、データ収集システム等全て順調に動作した。測定器は観測終了後無事回収され、回収後の試験により測定器に損傷のないことが確認された。 観測中のトリガー頻度は約2.3KHzであり、約1億個の宇宙線が測定器を通過した。この中から測定器に搭載しているオンライン・イベント・フィルタにより約400万個の宇宙線を選択し、磁気テープに記録した。データ解析は現在進行中であるが、まず測定器の基本的な性能を評価している。観測期間中に測定器の温度が大きく変動(約30度)したため、検出器、電子回路の特性を補正しなければならない。観測データを基に様々な補正を行った結果、飛跡検出器の磁場に垂直方向の位置分解能はジェットチェンバーの各ワイヤーで300μ、磁場方向の位置分解能はインナードリフトチェンバーのバーニアカソードを用いて250μが得られた。これまでの解析で達成された飛跡検出器の最大測定可能運動量は約100GeV/cとなった。更に解析を進めて、この値を向上させる努力を続けている。飛行時間測定器の時間分解能は300psecが得られた。これにより運動量1.2GeV/c以下のエネルギー領域で反陽子を識別することが可能となる。これまでに全体の約1/5のデータについて物理解析を行った。低エネルギー反陽子、反ヘリウムの探索は過去最高の感度で行える見込みである。
|