研究概要 |
マイクロ波による平行励起法によると,スピン波対を熱平衡値を大きく越えて励起することが出来,自励発振さらにはカオスを発生させることが出来る.試料としては強磁性体YIG(イットリウム・鉄・ガーネット)の直径0.84mmの球状単結晶を使用した.スピン波の非線形非平衡状態において励起を強くして行くと通常自励発振が発生する.励起電力や静磁場など制御パラメータの変化により不規則発振波形は多様な変化を示す.それらの内,発振の臨界点すなわちホップ(Hopf)分岐直上でしばしば観測される間欠的発振を研究した.この不安定な振る舞いの起源としては,実験装置系が持つ揺らぎに起因していると考えられることが多い.しかし試料温度4.2K,外部静磁場12080eで観測された時系列データの,励起電力による変化を詳細に調べてみると,制御パラメータの増加に伴うラミナー(層流的)部分の長さの減少や,比較的短いバースト(乱れ)と長いラミナーの交互の繰り返し,という状況は定性的には間欠性カオスの発生過程を予測させる.そこでリターンマップ,ラミナー部分の長さのヒストグラム,さらに間欠性カオスの理論の一つであるPicovskyモデルにおけるバイファーケーションパラメータεの励起電力による変化及びラミナー長の平均のεによる変化を理論と比較した結果,非常によい一致を示すことが分かった.このことから実験で得られた不規則信号はPicovskyモデルの力学系が示す不安定化構造により起こっていると考えることが出来る。
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