[研究目的]本研究は生体蛋白質の重要な活性中心を構成する光学活性アミノ酸のカイラリティを調べ、なぜ生体アミノ酸のカイラリティがL型にだけ偏ったのか、その機構を解明しようと試みるものである。そのため以下の方法で実験を遂行した。 [方法の概要]原始地球の環境から推して、この問題を解く上で最も重要と思われる以下の3つの実験: (1)円偏光によりL型とD型との選択的励起機構を調べるフォトリシス実験、(2)ベ-タ崩壊で生ずる偏極電子・偏極陽電子を用いてL型とD型の散乱機構の差を調べるラジオリシス実験、(3)分子を特定の方向から衝突させてL型とD型の不斉反応を調べる配向実験、を行うための予備実験を実施した。 [進捗状況]本年度は実験開始時期が遅れて実施期間が短かったため、実験も準備の域をでないが、計画はほぼ予定どうり進行している。まず、フォトリシスの準備としては、主要装置であるパ-フェクトロンの一部に、試料ビ-ム導入系の増設、真空排気系の増強などの改良を加え、今年度新規に購入したYAGレ-ザ-発振装置、および超音速ノズル源を用いて、ビ-ムシ-ド法によるアミノ酸分子の超音速パルスノズルビ-ムをつくり、その特性を詳しく調べた。その結果、パルスビ-ムの頭部と尾部では中央部に比較してマッハ数が幾分小さく、ビ-ム内でもマッハ数が一様でない事実を確認するなど、超音速ノズルビ-ムに関してこれまでよく知られていなかった新しい知見を得た。特に、マッハ数30を超し回転温度の十分冷えたビ-ムが得られたので、左右円偏光レ-ザ-ビ-ムによるL型アミノ酸とD型とで僅かに異なる軌道電子のヘリシティの差を測定するための準備ができた。また、ラジオリシス実験の準備として並行して進めてきた低速陽電子蓄積装置の試験も、電子をテスト粒子とした蓄積実験でほぼ満足のいく結果が得られた。
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