研究概要 |
脳の神経回路モデルの研究の結果,筆者は,変形に強いパタ-ン認識システム“ネオコグニトロン"や,パタ-ンを認識するだけでなく切り出したり修復したりする能力のある“選択的注意のモデル"などを発表してきた.この一般研究では,これらのモデルの考え方に基づいた新しい視覚パタ-ン認識システムの設計原理の確立を目指して研究を進めている.本年度は特に,ネオコグニトロンの認識能力の向上と新しい学習手法の開発に重点をおいて研究を進めた. ネオコグニトロンの学習には,“教師なし学習"と“教師あり学習"のいずれの手法を用いることも可能である.学習パタ-ンを上手に選んで教師あり学習を行なえば,手書き文字のように変形の大きなパタ-ンに対しても高い認識能力を示すシステムを実現できることが,昨年度までの研究によって明らかになっている.しかし教師あり学習のための,良い学習パタ-ンを作成するためには,かなりの労力と熟練とを要した.これに対して教師なし学習では,学習にほとんど人手を要しないかわりに,認識率は教師あり学習に比して低いことが多かった. そこで本年度は,ネオコグニトロンの回路構造に改良を加えるとともに,新しい学習手法を導入して,従来よりも高いパタ-ン認識能力を,従来よりも簡単な学習手続によって実現することに成功した. 新しい学習法を用いれば,通常の誤り訂正型学習の場合と同じように,学習パタ-ンとそのカテゴリ-だけを教えればあとは自動的に学習が進んでいく.新しい学習法の効果を調べるために,手書き数字パタ-ンを学習させてみた.ネオコグニトロンは高い認識能力を示し,線の太さの違いや文字の変形だけでなく,字体の異なったパタ-ンも正しく認識することを確認した.
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