金属中を成長する疲労亀裂は構造物の安全性を左右するので、限界長さに達するまでの時間を精度よく把握しなければならないが、本質的に確率現象なので、平均値を求めただけでは安全の推定には役立たない。かりに分散まで求めても、高度の安全性が要求されるときは不十分であり、特に安全性に決定的な影響する最小寿命パラメ-タを含む疲労寿命の確率分布を決定しなければならない。このような目的のためには一般に、100個以上の試験片を用いて寿命分布を決定しても不十分とされている。 本研究は、疲労亀裂伝播線上の材料強度(疲労亀裂伝播に対する材料の抵抗)の確率分布を実験的に計測し、統計的解析と、確率過程のシミュレ-ションの応用により、比較的少数の試験結果から、疲労寿命の確率分布関数を決定する方法を確立することを目的としている。そのためには、定常亀裂成長過程を実験的に実現する必要があり、自動的に亀裂長さを計測し応力拡大係数を制御しながら、一定間隔で亀裂成長速度を観測する。 本年度は前年度に引き続き応力拡大係数のレベルを変えて実験を行なった。これは、材料抵抗の広範囲に渡る変動の仕方を調査するためで、疲労亀裂伝播則のパラメ-タの変動を精密な計測によって検討することである。このようにして得たデ-タを用いて、非ガウス確率過程で材料抵抗の空間的分布のシミュレ-ションおよび疲労亀裂伸長のシミュレ-ションを行ない、実際の実験と類似した結果が得られた。よって、構造部材の疲労亀裂伝播寿命解析に非常に有効な方法を与えるものと言えよう。
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