研究初年度の平成2年度においては、まず、通常のX線管球の特性X線源を用いる基準波長での回折強度の精密測定システムとして、高速で高精度の四軸ゴニオメ-タ-を購入し、これを測定系として調整、評価して使用可能とした。また、シンクロトロン放射光X線を用いた多波長の回折強度デ-タを、高エネルギ-物理学研究所放射光実験施設に構築した波長可変X線分光装置と水平型四軸回折装置からなる実験系を使用し、蛋白性アミラ-ゼインヒビタ-結晶について測定した。ここでは、重原子同型置換体が全く得られていないこの結晶について、多波長異常分散法で用いる銅を含む結晶と鉄を含む結晶を調製し、それぞれの多波長デ-タを測定した。これらについて新たに開発した多波長異常分散法の解析法を適用し、結晶における銅及び鉄の位置と占有率の決定に成功した。このような異常分散原子の導入例はもちろん、その位置決定も全く初めての成果であり、日本結晶学会年会で発表した。さらに、これまで開発した多波長X線異常分散法の測定と解析の方法を、リボヌクレア-ゼHなどに適用し、結果を仏国での国際結晶学会議で3件報告した。 新たにダンシルリジンに結合する免疫グロブリンのFv鎖の結晶化に成功し、さらに、ダンシルリジンと結合した複合体の結晶も蛍光法で確認して得、両者の結晶の回折強度デ-タを測定した(日本結晶学会年会で発表)。このFvのみの結晶について白金を異常分散元素とする置換体を調製し、現在この異常分散デ-タを測定し処理している。なお、位相決定、構造精密化と位相拡大の方法の開発は、高性能のワ-クステ-ションが使用可能となったことから、これを用いて多波長異常分散法の解析処理プログラムシステムとして作製整備した。
|