研究概要 |
近年,有機結晶の物性に関しては多大の発展がみられ,金属的な伝導性や超伝導性を示す物質が次々と報告されている。これらの物性を理解する上で,その基本的な性質を詳しく調べ,相互の関連を総合的に研究することが重要である。本研究では,有機伝導物質や有機磁性体の磁性や光学的性質の異方性を微少単結晶を用いて研究することを目的としている。 本年度は,この準備としてSQUID磁束計の設置・調整とTTFやBEDTーTTFとハロゲノ金属酸錯体および金属dmit錯体の単結晶作成とその一部の磁性測定を行った。 SQUID磁束計は順調に作動し,いろいろな測定条件についてのチェックを終了した。当初予定した性能が得られているので,本研究のみならず関連する多くの研究に有効に使える見込みである。 TTFと四塩化マンガン(II)酸の錯体では単結晶が得られ,電子常磁性共鳴の方法によって,線幅,g因子の異方性と温度変化の実験を行った。線幅は結晶の2軸方向で室温,4.2Kともに,低次元磁性体に特有な角度依存性が観測され,マンガンイオンの上のスピン間には1ないし2次元の磁気相互作用が働いていることを示している。また,結晶の各軸方向に磁場をかけたときのg因子は,低温領域で急激かつ異方的にシフトする。同様な電子常磁性共鳴の挙動は,BEDTーTTFの四塩化コバルト酸錯体においても観測されている。g因子のこのような温度変化は,低温で磁気的な短距離秩序が形成されていることを示唆している。 金属dmit錯体に関しては,金属イオンとして磁気的なものを用いているが,現在のところ物性測定に耐え得るような良質な単結晶を得るに至っていない。
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