研究概要 |
安定な有機ラジカルの結晶で,分子間に強磁性的な相互作用を示すものは非常に限られているが,その相互作用の発現の機構を調べることは,今後そのような物質を創り出す上で極めて重要である。本研究は,そのような観点から絶縁性及び伝導性有機物質の磁性と構造の関係を研究することを目的として計画された。昨年度絶縁性の化合物として採用したpーニトロフェニルニトロニルニトロキシド(pーNPNN)の結晶において、今年度に入ってまもなく,史上最初の有機強磁性体を発見するに到った。したがって,この物質とその周辺の化合物に集中して研究を進めすことにした。pーNPNNには,少なくとも4種の結晶多形が存在する。これらの相互関係の研究を進める一方,ニトロ基をハロゲン,シアノ,アミノ,フェニルなどに置換した化合物の合成と磁性の研究を行っている。このなかに,すでに種々の興味ある磁性を示す物質を見いだしている。まず,pーNPNNの三斜晶系の結晶では,2 Kから室温まで1次元のハイゼンベルグ強磁性体になること,更に低温の0.65Kでは3次元の反強磁性体になることを見いだした。また,フッ素,臭素,シアノを置換したものでは,強磁性分子間相互作用を見いだし,これらに共通な構造的な特徴から,強磁性相互作用に関する重要な知見が得られつつある。一方,アミノ置換体では,1次元のハイゼンベルグ反強磁性模型で説明可能な結晶が得られている。これらの有機化合物では,スピンに異方性が少ないので,ハイゼンベルグ模型の理想的なモデルになると考えられ,物性理論の面からも興味がもたれている。
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