研究概要 |
昨年度報告したように,p-ニトロフェニルニトロニルニトロキシド(p-NPNN)の斜方晶系の結晶で,化学構造や結晶構造が特定された有機物質としては,最初の強磁性体が発見できた。今年度はこの物質の磁性や熱的性質を詳しく調べ,また関連物質の磁性と構造との関係を研究した。p-NPNNに関しては,種々の磁場中での熱容量の温度変化を調べ,強磁性体特有の変化をすること,転移点以下での磁化曲線に履歴現象が見られることなどを示した。特に,米国コロンビア大学の植村教授との共同研究で,ミュオンスピン回転の実験を行い,自発磁化の温度依存性を観測し,この物質が間違いなく強磁性状態になっていることを示した成果が大きい。また、同時に磁化容易軸がb軸方向であること,等方的な3次元ハイゼンベルグ模型でほぼ説明できることが分かった。この物質の強磁性相互作用が,結晶構造とどのように対応するかについても,関連化合物の磁性と構造の研究からほぼ見当がつくようになった。一方,ニトロニルニトロキシドを2個,3個もつ多スピンの化合物についても研究を行った。そこでは,分子内の相互作用と分子間の相互作用が競合して,極めて複雑な磁性を示すことがわかった。特に,スピンの量子効果という観点から解析を進め,大変興味ある結果が得られている。すなわち,多スピンの化合物で分子内に強い相互作用がある場合でも,分子間に弱い相互作用が働くだけで,結晶のスピン状態が大きく変化することがわかった。この研究は,高スピン分子を使って有機強磁性体を作る方法に対して、重要な示唆を與える間題を含んでいる。 この強磁性体の発見で,その研究に集中する必要が生じたために,当初予定した伝導性の有機結晶の研究は,初年度に若干行ったのみで,今後の課題として残ることになった。
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