研究概要 |
1.ドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO)の臨界ミセル形成濃度(cmc)の決定とcmcの塩濃度、pH(イオン化度alpha_M)依存性。cmcを表面張力測定より決定した。cmcはミセルのイオン化度alpha_Mが0.45-0.5付近で極小を示した。これは非イオン種-カチオン種間の引力的相互作用によって説明できる。塩濃度の増加と共に、cmcは減少した。その減少の程度はカチオン種(alpha_M=1)で大きく、そのcmcは0.2MNaClでは非イオン種(alpha_M=0)のcmcよりも小さくなった。この結果は、カチオン種間にも引力相互作用が働いており、電気的反発が遮蔽される時、その引力相互作用が非イオン種間のそれを凌駕することを示している。 2.混合ミセルの安定性の評価。DDAOの水素イオン滴定の結果より、塩濃度が0.05M以上の時、過剰自由エネルギーが近似的にalpha_Mの二次式で記述できることが判明した。この結果に正則溶液論を適用してみた。二次係数B_2の値を評価してみると、それぞれ2.81,2.65,2.37であった。cmcのalpha_M依存性かもらB_2の値を評価してみると、0.05,0.1,0.2MNaClに対して、それぞれ2.3,2.1,1.9となった。この差を、水素結合エネルギーの違いとして評価すると、0.5RTという結果になる。 3.DDAOミセルの会合数と大きさ。<静的光散乱>還元散乱強度とDDAO濃度Cの関係はカチオン性ミセルと非イオン性ミセルのそれぞれに近い組成では直接的であったが、中間の組成では還元散乱強度は濃度の増加とともに減少した。cmcに外挿して求めた会合数は、非イオンとカチオン性ミセルでは余り違わず、中間の組成での会合数はalpha_M=0.5あたりで極大を示した。極大を与えるalpha_Mはcmcの極小を与えるalpha_Mとほぼ一致している。非イオンとカチオン性ミセルの会合数は0.1MNaClでは69と70であり、0.2MNaClでは66と69であった。C=3×10^<-3> cm^<-3>での会合数の最大値は0.1MNaClで180、0.2MNaC1にも達する。 <蛍光プローブ法>蛍光プローブとしてピレンを用い、消光剤として塩化ヘキサデシルピリヂウム(HPC)と塩化ドデシルピリヂニウム(DPC)を用い、蛍光プローブ法で会合数を評価した。その結果は、alpha_M=0.5付近では濃度とともに会合数が増加したが、予想されるほどの大きな増加はみられなかった。ミセルが大きくなったため、ミセル内での消光剤による消光過程が遅くなり、この方法の前提である消光が自然寿命よりずっと短いという仮定が成立しなくなったのであろう。<動的光散乱法>動的光散乱法により、ミセルの流体力学半径を評価した。非イオンとカチオン性ミセルに対しては、流対力学半径はほぼ等しく、濃度依存性も弱かった。中間の組成で半径は濃度と共に大きく増大した。これは、静的光散乱の結果と良く対応している。 .生チトクロームcと、非イオン性界面活性剤の相互作用。アミノ酸残基当たり20-50倍大過剰にC_<12>E_6を生チトクロームcに水溶液に添加すると、CDスペクトルがアポ蛋白のそれに似てきた。このCDの変化に平行して吸収スペクトルにおいてもソーレー帯の吸収が減少してゆき、最後には完全に消失する。ソーレー帯の消失は、非イオン性界面活性剤の添加によりヘムとアポ蛋白間の共有結合の切断が起こっていることを意味する。このことは極めて考えにくいことであるから、今回見いだされた効果は非イオン性界面活性剤に含まれる微量の不純物に基づくと結論せざるを得ない。アルキルポリオキシエチレン型の界面活性剤には微量の酸化能を有する不純物が含まれている報告がある。この不純物によりヘムおよび結合部位が酸化され分解したと考えると今回見いだされた現象は理解できる。 .イオン性ゲルと疎水性対イオンの相互作用。疎水性対イオンであるドデシルピリヂニウムイオンのポリアクリル酸ゲルへの吸着は協同的であり、その挙動の塩濃度依存性は対応する高分子イオンのそれによく似ていた。吸着挙動の協同性は、解離度(alpha)の減少とともに弱くなり、alpha=0.2で再び強くなった。吸着によるゲル体積の減少と吸着量の間に比例関係が見いだされたが、このことは、より収縮したドメイン構造形成が吸着によって誘起されていることを示唆している。
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