研究概要 |
ビスマスやテルルに代表される重いヘテロ元素は,金属と非金属との接点に位置しており,非金属性が乏しいため,これらの元素から導かれる化合物は一般に有機化合物との反応において,同族列のより軽いヘテロ元素の場合にはみられない特殊な擧動を示すことが多く,特に官能基選択性の高い反応を穏やかな条件下で行ないやすいという大きな特徴をもっている。15族および16族ヘテロ元素から導かれる有機および無機アニオン種,イリド,イミンなどには基質に応じて異なる反応経路に従って化学変換を行なうものが多く,いわゆる“カメレオン特性"と呼ばれる興味深い性質を示すことが判っている。今年度はビスマスイリド,ビスマスイミン,亜テルル酸塩などの化学性に焦点を絞って,反応の選択性や反応擧動の多重性を検討した。ビスマスイリドについては安定型イリドのX線結晶構造解析に世界で初めて成功し,ビスマス・炭素イリド結合が二重結合ではなく,極性単結合に近い性格をもつことを確認した。ビスマスイミンについては古い文献の追試を行ないその内容を訂正するとともに,物理化学的性質や反応性を体系的に調べて,安定型ビスマスイミンの化学性を初めて明らかにすることに成功した。とくにナイトレノイド等価体としての可能性を期待して各種の捕捉実験を行なったが,その実証は不成功に終った。テルル酸化物の塩基性条件下における有機化合物との反応は現在までの処まったく知られていないが,亜テルル酸ナトリウムについてその酸化性を調べた結果,チオ-ル,チオアミドなどに代表される限られた範囲の有機硫黄化合物に対して,きわめて官能基選択性の高い酸化または脱硫反応を行なうことが明らかになった。
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