研究概要 |
ビスマスやテルルに代表される重いヘテロ元素は金属と非金属との接点に位置しており,非金属が乏しいため,これらの元素から導かれる化合物は一般に有機化合物との反応において,周族列のより軽いヘテロ元素の場合にはみられない特殊な擧動を示すことが多く,特に官能基選択性の高い反応を穏やかな条件下で行ないやすいという大きな特徴をもっている。今年度はビスムチン,ベンゾ縮合環をもつビスミンと関連化合物,亜テルル酸とテルル酸塩,テルル化ナトリウムなどの化学性に焦点を絞って,反応の選択性や反応挙動の多重性を検討した。ビスムチンについては,オルト位にアルコキシル基をもつトリアリ-ルビスムチンが異常に高い塩基性をもつことを明らかにするとともに,親水性官能基を賦与することによる水溶性ビスムチンの合成に向けた検討を始めた。このタイプの化合物は新しい造影剤としての可能性をもつので,実用面への展開が期待される。ベンゾ縮合環で安定化されたビスミンとその4ーオキサおよびチア誘導体,ならびにその関連化合物について,安定なビスマスーアルキル結合をもつ化合物の合成に成功した。またスルホニル酸素とビスマス原子間の相互作用がビスムチンの立体配座を固定化する点に着目して,非対称ビスムチンの光学分割に初めて成功した。安定なキラル中心として実現可能な,最も重い原子の例である。テルル酸および亜テルル酸塩がきわめて高い官能基選択性を示す,効率よいチオ-ルの酸化剤であることを明らかにした。この試剤を用いると第一,第二および第三チオ-ルの間に大きな相対反応性の相違が実現できるので,異種のチオ-ルの混合物から非対称ジスルフィドの直接合成が可能である。テルル化ナトリウムの応用として,この試剤を用いた極性反転によるスルホンの合成を試み,好結果を得た。
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