k_c基質のソルボリシスにおいて全溶媒中で多量のイオン対復帰がみられたが、その溶媒依存性は殆んど類似であり、強求核剤や過塩素酸アニオンの添加にもイオン対復帰量は変化がなかった。従って、k_C基質は、本質的に緊密イオン対中間体を含み、基質は殆んど無関係な、溶媒に固有の中間体イオン対復帰のエネルギー障壁を持つ事がわかった。従来のソルボリシスの溶媒解析にはイオン対復帰の考慮はk_Cソルボリシス基質に関する限りは不必要である事がわかった。ベンジルトシラートのソルボリシスにおいては、カルボカチオンが不安定になるにつれて、イオン対リターンは減少し、溶媒の求核性の増大およびイオン化能の低下によっても減少することがわかった。ボーダーラインのベンジル系ではS_N2-S_N1競争を実証する結果を与えた。現在ソルボリシス置換機構に対して、S_N2型置換遷移状態構造のタイト-ルーズで解釈するk_C-k_S連続スペクトルの概念が提唱されているが、本研究で得られた事実は、むしろこの定説と異なりS_N1、S_N2の二元性を基にした一般理論の必要性を示唆するものと考えられ、ソルボリシス置換機構に対して、S_N2型置換遷移状態構造の"タイト"-"ルーズ"の連続的変動の連続スペクトルとして解釈する1段階反応の協奏的S_N2と、逐次多段階反応を基本とするS_N1の二元性機構を考えるべきと結論される。Winstein-Grunwaldの溶媒効果解析では、ソルボリシスにおける溶媒和挙動は、遷移状態カルボカチオンの溶媒和安定化(Y)と溶媒自身の求核関与(N)に依存する。非局在化安定化の顕著なベンジル基質ソルボリシスにはこの式は適用されない。非局在化カチオンの挙動に対しπ-非局在化の度合を導入して全イオン溶媒和項(Y)を局在化・非局在化両項に分け、π-非局在化カチオン内の溶媒和効果を新しい因子として加えた3項式による溶媒効果直線自由エネルギー関係則の統一的解析法を確立した。
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