研究概要 |
金属錯体の低いエネルギ-領域の電子状態を解明するために、トリス(βージケトナト)ルテニウム(III)錯体について実験を行った。測定は購入したFT/IR VM7を用いた。CCl_4溶液中、1cmセルを用いて3,500cm^<-1>〜10,000cm^<-1>までのスペクトルを測定した。用いた3種のトリス(βージケトナト)ルテニウム(III)錯体は、基底状態では低スピン状態をとっている。結果は幅広な吸収スペクトルと錯体の振動スペクトルの重ね合わせで得られるが、振動スペクトルは対応する鉄(III)錯体の振動スペクトルとの差をとることによって差し引いた。その結果、4,000cm^<-1>に分子吸光係数約20程度の電子遷移によると思われる吸収帯が存在することがわかった。全ての錯体について、7,000cm^<-1>〜16,000cm^<-1>には吸収帯はみられず、これより短波長側にはRu(III)からβージケトンへの電荷移動吸収帯が現れ、他の金属(d,d^*)遷移は測定できない。溶存状態で錯体は八面体構造をとっているとして得られたスペクトルを、すべての(d,d^*)遷移を考慮して解析し、強度の点ではまで問題はあるが ^2T_2→ ^6A_1が妥当であるとの結論を得た。10D_9は約30,000cm^<-1>、Racahのパラメ-タBは約1,100cm^<-1>である。この知見は、これまで可視部のみの測定によって考えられてきたものと一致しない(これまでは、このような低い電子状態が存在することはないとしていた)。低エネルギ-領域についてさらに明らかにするため、現在アンミン錯体、アコ錯体についての実験を行う準備をしている。
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