研究概要 |
低スピンd^5電子系である金属錯体の低い電子状態を明らかにする目的でトリス(β-ジケトナト)ルテニウム(III),トリス(ビピリジン)ルテニウム(III)およびヘキサアンミンルテニウム(III)錯体について研究を行った。4000cm^<-1>〜7000cm^<-1>にかけて電子遷移による幅広の吸収帯を観測することができた。この吸収帯は分子吸光係数約20であり、(d,d^*)遷移 ^2T_2→6 ^6A_1と帰属した。新しく見積った配位子場分裂は、Ru(acac)_3で△=27B,[Ru(bpy)_3]^<3+>および[Ru(NH_3)_6]^<3+>で△=28Bである。Ru(acac)_3,[Ru(bpy)_3]^<3+>では可視部にモル吸光係数の大きな電荷移動吸収帯があり、第二、第三の(d,d^*)遷移は観測できないが、電荷移動吸収帯が可視部に存在しない[Ru(NH_3)_6]^<3+>で、第二、第三、第四の(d,d^*)遷移を帰属することができた。 [Lu(Pc)_2]はπ電子系に正孔を一つもつ化合物である。この正孔は二つのフタロシアニン環に非局在化していることを明らかにし、フタロシアニン二量体ラジカルの低波数に存在する吸収スペクトルの帰属を行った。6000cm^<-1>〜15000cm^<-1>付近に現れる吸収帯を、一つのフタロシアニンπ電子系を基底関数とする局在化軌道を用いて解析した。低エネルギーから、 ^1B_1, ^2E_1と ^3E_1に帰属した。C_<4v>対称性をもつヘテロダイマー[Lu(NC)(PC)]の基底状態では正孔はNc環上をより占有しているが、 ^2A_2励起状態ではPc環にその占有が起こることを明らかにした。
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