バチルス ブレビスを宿主とする蛋白質分泌生産システムを用いれば、ヒト蛋白質の生産が可能となったが、その効率は細菌由来の蛋白質の生産に比べれば一部の例を除いてはるかに低い。その効率の差はそれぞれの蛋白質の分泌過程における構造変化の差に原因があると考察し、本研究では分泌過程における蛋白質の高次構造の生成を支配する酵素類、即ちペプチジル プロリル シス・トランス イソメラ-ゼ(PPI)やプロテイン・ジスルフィド イソメラ-ゼ(PDI)、さらに蛋白質の高次構造を認識して分解するプロテア-ゼなどの機能を解析した。 PPI活性をバチルス ブレビスの培養上澄液と細胞抽出液中に見出した。それぞれの液から、PPIを硫安塩析、DEAEセルロ-ス等で精製しその性質を調べた。菌体内および培養上清液中のPPIともに熱安定性の高い酵素であり、85°C10分の処理によっても失活しなかった。本酵素は真核生物のPPIの阻害剤であるFK506およびサイクロンスポリンAに対して有意な感受性を示さなかった。本酵素の遺伝子のクロ-ン化を試みているがまだ成功していない。PDI活性は本菌の細胞内に見出され、その性質は細菌に広く見出されるチオレドキシンに類似していた。本酵素についも精製を進め、その性質について詳細な検討を加えようとしている。本酵素の遺伝子のクロ-ン化を行っており、この遺伝子を用いて本酵素の蛋白質分泌に対する役割等を明らかにする。一方、細胞内で異種蛋白質を特異的に認識して分解することが知られているlonプロテア-ゼ様の酵素の遺伝子を本菌ゲノムよリクロ-ン化し、その全ヌクレオチド配列を決定した。このlon遺伝子を利用してバチルス ブレビスからlon遺伝子欠損変異株を作製することにより、分泌過程で異種蛋白質や折りたたまれていない蛋白質を本酵素が分解している可能性が示唆された。
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