研究概要 |
1.平成2年度には以下の新知見が得られた。(1),食肉の熟成中にα-コネクチンがβ-コネクチンと分子量120万の断片に分割される。(2),この現象はCa^<2+>の結合によって誘起され,0.1mM Ca^<2+>で変化量が最大になる。(3),分子量120万の断片は筋原線維のZ線寄りに局在する。2.平成3年度に得られた新知見は以下の通りである。(1),ネブリン分子の断片化は0.1mM Ca^<2+>で効果が最大となり,Ca^<2+>が結合すると断片化が起こる。(2),ネブリン1分子は細いフィラメントの全長にわたってアクチンと側面結合している。(3),ネブリン分子は生体内では細いフィラメントの構造を安定化しているが,食肉の熟成中に断片化が起こり細いフィラメント構造の不安定化を招く。3.平成4年度には以下の成果が得られた。(1),パラトロポミオシンの簡単な精製法を確立した。(2),食肉の熟成に伴いパラトロポミオシンが局在移動してアクチンに結合すると,アクチン・ミオシン間に形成されていた硬直結合が脆性になり,サルコメア長が復元する。(3),0.1mMのCa^<2+>によってパラトロポミオシンの局在移動が起こる。4.平成5年度に得られた成果は以下の通りである。(1),筋原線維のZ線にはリン脂質が存在し、その含量は筋原線維の蛋白質100g当り約1gである。(2),リン脂質はZ線の無定形マトリックス物質である。(3),食肉の熟成中に起こるZ線の脆弱化はリン脂質の遊離によるものであり,Z-フィラメントを構成するα-アクチニンは変化しないのでカルパインは関与していない。5.以上の研究成果により,熟成に伴う食肉の軟化に関する「プロテオリシス説」は全面的に否定され,本研究代表者が提唱している「カルシウム説」の正当性が立証された。即ち,食肉の熟成中に筋漿Ca^<2+>濃度が0.2mMに上昇すると,非酵素的に筋原線維構造が脆弱になり食肉の軟化をもたらす。
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