研究概要 |
付加価値の高い医薬の創製などの知識集約型産業の育成が我国の将来にとって極めて重要であり,精密有機合成化学はその基礎を支えるものである。本研究は,極めて複雑な化学構造を有するマクロリド,ポリエ-テル抗生物質などを,平易で選択的高効率合成するための方法論の開発研究を通じて,現代精密有機合成化学の進歩に寄与すると共に,次代の創薬への合成化学的基盤の向上に資することを目的に行われる。 数年来,我々は一般性の高い新反応を種々開発し,これらを一連の代表的マクロリド,ポリエ-テル抗生物質などの合成に応用し,グルコ-スをはじめとする糖などをキラル源とし,メチノリド,ピクロノリド,エリスロノリドA,タイロノリド,サリノマイシンなどを基本的には同一の方法論により高選択的に合成し,これらの新反応,新方法論の精密有機合成化学における有用性を示してきた。 以上の成果の上に立って本年度は以下の3点を中心に研究がなされた。1)マクロリド合成に関しては,最近開発したセコ酸,マクロ環のコンホメ-ション制御法(NMRとMMP2計算によるコンホメ-ション解析と保護基による制御)により12ー16員環典型アグリコンの合成を行ない,エリスロノリドAの超効率合成法の開発に成功し,更にロイコノリド類,マリドノリド類の完全立体選択的合成にも成功した。2)ポリエ-テル系では,熱力学的条件下におけるキレ-ション制御によるテトラヒドロフラン環の合成を行ない,これを利用してラサロシドA,イソラサロシドAの新合成法を完成させた。3)ポリエ-テルマクロリドでは海産性ハリコンドリンBのフラグメント類の一部の合成も行われた。
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