研究概要 |
倍数種とその祖先型低倍数種の核ゲノムの差異を分子遺伝学的手法を用いて調べ、倍数性進化の分子的基礎を明らかにするため、パンコムギとその祖先種を用い、次の4項目について研究を進めている。それぞれの項目について本年度得られた結果は次のとおりである。 A)基盤的研究--前年度作成したパンコムギの21染色体のRFLP地図の拡充と、Map Makerを用いた再検討を行い、総計199座位、1869cMからなるRFLP座位の連鎖地図を作成し、うち12染色体の連鎖地図については、動原体の位置を決定した。 B)ゲノムレベルの研究--核のゲノム構成がAA,AABB,AAGG,AABBDDである4群のコムギの多数の系統について、パンコムギ核DNAのクローンをプローブとするサザンハイブリダイゼーションを行い、群内・群間の核ゲノムの変異性を定量的に分析・評価した。 C)染色体レベルの研究--パンコムギの第2〜4の3同祖群に属する9染色体の末端欠失系統64のDNAを用い、これら染色体のRFLPマーカーであるDNAクローンをプローブにしてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、これら9染色体すべてについて、分染地図とRFLP地図を1つの染色体地図に統合することができた。 D)遺伝子レベルの研究--rbcL、atpA,atpEなどの遺伝子を含む葉緑体DNAの2つの領域について、倍数性コムギとその祖先型2倍種の制限酵素分析を、4塩基を認識する制限酵素を用いて行い、塩基配列の変異が生じている位置とその性質を決定した。その結果、塩基多様度からみた変異性は、2つの祖先2倍種、一粒系コムギとAegilops speltoidesに比べ、倍数性コムギは1/3以下であることが判明した。このことから、2倍種に比べ、倍数種の起原が極めて新しいことが推定された。
|