研究概要 |
1.カキの穀に見られるチョ-ク層の部分について,日本に多産する種類を用い,種による構造・形態の違い,出現部位の違いを調べた。その結果,種による差異はごくわずかで,むしろ出現部位とチョ-ク層の厚さによって,その構造に違いが現われるらしいことがわかった。すなわち貝穀の内部構造が,遺伝的あるいは生化学的要因でなく,出現場所による物理的条件の違いに支配されている可能性が大きいと思われる。 2.カキツバタ類の穀の空室にみられるハニカム構造について観察し以下のことがわかった。(1)ハニカム天井部(最後の形成)はメノウなど無機的沈殿物が岩石中の空洞に同心状に沈殿してつくるのと同じような同心状形態を示し,結晶配列は求心状で,動物の分泌細胞から直接に分泌したものでないことを示唆している。(2)壁の微細構造は長さ1〜2um,太さ0.2umほどの桿状ないし紐状の結晶の集合からなる。(3)小空洞中には針状の結晶が多くみられる。この針状結晶は,マガキ類の空室に生ずるものと結晶型が同じで,これも種類によらず無機的要因で結晶成長が起こっている。 3.二枚貝類の固着には,カキのように穀物質を用いてセメントするものと,イガイのように足糸を分泌してそれで固定する種類とがいる。ナミマガシワ類は,足糸で固定するグル-プに含められてきたが,その固着メカニズムの詳細は不明であった。ナミマガシワでは,足糸に相当する部分が石灰化し,台状の構造物をつくる。この台の下部は方解石で上部はアラレ石からなり,台の上端で筋に接続している。今年の研究で台には多数の穴があいていて,その中には表皮細装胞の突起が入っていることもわかった。このような台がどのようにして基盤に固着するか,接着剤はなにか,が今後の課題となる。
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