研究概要 |
昨年度の研究で琵琶湖と3河川に遡上するアユのmtDNAを材料に制限酵素切断型の分析を行った結果,琵琶湖には河川に少ない遺伝子型が50%以上含まれ,河川と琵琶湖では遺伝子型の組成に大きな差があることをを示した。これらの分析には産卵親魚を用いたが,種苗放流効果の判定には稚仔魚や卵などの微量試料の分析が不可欠である。mtDNAの制限酵素切断型の泳動像は一般には切断片をEtBrで直接染色するかアイソト-プ標識したプロ-ブを用いたサザンハイブリダイゼ-ション法によって検出している。しかし,EtBr染色は検出に多量の精製した試料を要し,微量分析できる放射性プロ-ブ法は特別な施設,技術,人などが必要で集団分析には適さない点があった。本年度の研究では安全に微量試料で各種の魚類のmtDNAの型分析を可能にする化学的標識と微量分析の常法を定めることを目的とした。 プロ-ブ用のmtDNAはシロサケから沼知・小林(1988)の方法で分離抽出し,ランダムプライマ-法によりジゴキシゲニンで標識し,非放射線プロ-ブを作成した。これを用いて円口類(ヤツメウナギ),軟骨魚類(ドチザメ,エイ),真骨魚類(アミア,ポリプテルス,肺魚,アユ,サクラマス,ハス,スズキ,カサゴ)の微量試料(0.1g)から分離した全DNA制限酵素で消化し,サザンハイブリダイズしてmtDNA切断片を特異的に検出した。同時に上記の種類から分離した閉環状mtDNAの切断片をEtBr染色で検出し,ハイブリダイズした検出像と比較した。 シロサケmtDNAから作成したジゴキシゲニンプロ-ブはこの研究に用いた全ての魚種にハイブリダイズし,EtBr染色像と同じ切断型が明瞭に検出できた。この結果,ジゴキシゲニン標識シロサケmtDNAをプロ-ブにすることによって,広く各種の魚類のmtDNA切断型の分析が可能で,しかもmtDNAに特異的で染色感度が優れているため,ミトコンドリアの分離が不要となった。また,ごく微量(0.2〜0.5g)の筋肉のような組織があれば凍結あるいはアルコ-ル固定した組織からでも,粗全DNAを抽出して分析が行えることも示された。この化学標識サケmtDNAプロ-ブにより洋上や遠隔地で漁獲される各種の魚類の集団分析が確実,容易に行えるようになり,さらに稚仔魚や微組織片を用いた研究や種の同定も可能になった。
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