研究概要 |
サルを用いて,海馬における認知記憶ニュ-ロンの同定,分類,局在,情報処理様式(研究1),およびこれらニュ-ロンの虚血性壊死と記憶障害発生の機序(研究2)について解析した。 1.研究1では,最近われわれが開発した特殊駆動装置(キャブ)を用いて(1)手掛かり刺激を認知してレバ-押しによりキャブを前後左右に移動させる学習課題,および(2)各種感覚刺激呈示装置による報酬性,嫌悪性または新奇な視覚刺激の識別および逆転学習課題に対するサル海馬ニュ-ロンの応答について解析した。(1)の課題で総数140個,(2)の課題で総数1911個の海馬ニュ-ロンを記録した。その結果,海馬には1)自己の居場所をコ-ドするニュ-ロンや自己の居場所と外界刺激の位置との関係を自己中心的座標または外界対象中心的座標でコ-ドするニュ-ロン,2)報酬性物体,嫌悪性物体または新奇物体を見たときに強く応答する報酬性物体応答型,嫌悪性物体応答型および新奇物体応答型ニュ-ロンや,特定の物体または特定の範疇に属する物体に対して強く応答する認知細胞類似応答型ニュ-ロンの存在することが判明した。 2.研究2では,脳虚血によるサル海馬錐体細胞の選択的破壊動物(モデル動物)の作製およびこれらモデル動物における記憶障害の有無の確認を目的とした。合計8頭のサルを用いて,両側総頚および椎骨動脈の4本の動脈,あるいはさらに両側外頚および内頚動脈を加えた計8血管を,5,10,13,15および18分間血流遮断した。この結果,海馬体,とくにCA1領域の錐体細胞の選択的破壊を起こすには,8本の動脈を13〜18分間閉塞して脳への血流を遮断することが最適な条件であることが判明した。また,これらのモデル動物では,遅延時間を延長すると,再認テスト(遅延非標本合わせ)(新しい記憶)障害が顕著になることも明らかになりつつある。
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