研究概要 |
肺癌の発生機序に関して,17番染色体に位置する癌抑制遺伝子p53の構造異常を,PCR-SSCP法(以下SSCP法)と免疫染色法(以下IHC法)にて検討した.当科の原発性肺癌の手術あるいは剖検例44例中,SSCP法では34%,IHC法では35%が陽性で異常が見られ,両者の一致率は74%であった.p53異常は組織型では偏平上皮癌,喫煙歴では喫煙者に有意に多かった.手術例97例を対象に,IHC法にて解析したp53異常の予後因子としての役割を検討した.Kaplan-Meier法により生存曲線を求め,generalized Wilcoxson法にて検討したところ,p53陽性例,特に治癒切除例で有意に予後不良であった. 肺の線維化に関して,本年度は1pr/1pr,++マウスに加え,オゾン感受性のC57BL/6J及びオゾン非感受性のC3H/HeJマウスに,シリカとbleomycinを経気道的に投与し,間質性肺病変の状態を観察した.その結果,bleomycin投与による肺病変の程度は明らかにオゾン感受性C57BL/6Jで強かったが,シリカ投与では両群に差を認めなかった.これまでシリカやbleomycinによる肺障害は活性酸素が関係すると言われていたが,今回の検討結果からシリカによる肺障害の機序は,bleomycinやオゾンと異なると考えられた. 肺胞T細胞のT細胞抗原受容体(TCR)の発現は低下しており,PHAに対する細胞内遊離カルシウムイオン応答は低下している.一方メモリーT細胞でマーカーであるCD45RO抗原の発現は,末梢血に比して肺胞T細胞で亢進している.したがって肺胞T細胞は,何らかの強い抗原刺激を受けた結果TCRの発現が低下し,種々の抗原,ないしマイトゲンに対しても低反応となっていることが推測される.しかもアポトーシスを誘導するFas抗原の発現は,サルコイドーシス,各種間質性肺疾患共に肺胞リンパ球において末梢血より増強していた.特にサルコイドーシス肺胞T細胞のFas抗原発現は,対象疾患肺胞T細胞に比して増強しており,同疾患での何らかの抗原刺激がうかがわれる.
|