研究概要 |
我々はこれまで成熟した正常脳内の病巣は,脳浮腫液の貯留,astrocyteの細胞分裂などによって病巣が巧妙に修復され例外なく著しいreactive astrocytosisが生ずるが,この過程は乏血,外傷,中毒,ウイルス感染症等各種脳疾患に基本的にも共通することを報告してきた。他方,なおastrocyteの出現が無いか,あるいは乏しい胎児脳内においては,死滅細胞の除去後はastrocytosisを殆ど生ずることなく奇形と呼ばれている病態を結果して修復を完了することも報告した。 ところが今年度の研究により,肝機能障害に基づく剖検例を検索した結果,astrocyteが原発的に障害され,これに基づき神経細胞に変性,消失が生じていることは実験的なアンモニア投与ラットによっても証明された。そしてastrocyte自身も決して急激に変性,死滅することを認めた。このことから,各種ヒト肝脳疾患の脳病巣では慢性例でもastrocytosisが殆ど生じていないという点はこれまで極めて特異と考えられてきたが,これはアストロサイトの機能不全に基づくものと考えられた。以上から今年度の結論として脳病巣の修復機序は, 第1に成熟した正常脳内で正常なastrocyteをもつ脳内における各種脳病変では強いastrocytosisを伴い病巣修復過程を終えていること。 第2に成熟した正常脳内でもアストロサイトの機能不全脳浮腫ある肝機能不全などにおける修復過程は極めて特異であること。そして 第3にグリア細胞の産生がなお認められないか,未熟な,胎児脳内におけるastrocytosisの殆どない修復機序の3つに分けられること。従って今後はこの3つに大別して修復過程を研究すべき基本的な方針が確立した。 現在,成熟脳内等胎児脳内においてastrocyteの機能のマ-カ-としてNGF並びにグルタミン合成酵素の活性を検討中である。
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