本年度は、存在・認識概念の再検討という課題を達成するための基礎的研究を行った。それは、主として二つの側面からなされた。 1日本語文の意味記述を論理学におけるモデル論的手法によって行った。日本語文の論理的意味記述の観点からとりわけ重要であるのは、いわゆる助詞・助動詞の意味的役割をどうとらえるかである。 (1)研究代表者は、「がる」「よう」「たい」といった表現の意味記述について考察した。これらの表現は認識論的に興味深い問題を提起するが、その点の考察は次年度の課題である。 (2)研究分担者は、量化を表わす日本語の表現について考察を行った。量化表現が存在概念と密接にかかわる表現であることは、現代の論理学ではひろく認められている事実である。 以上の研究を行うにあたって、研究補助者による日本語資料の整理、計算機上での意味論的分析のとりまとめが必要であった。 2日本語文を対象とする意味記述を具体的に行おうとする際にひんぱんと問題となるのは、伝統的な三分法(構文論・意味論・語用論)の妥当性である。この三分法については、単に日本語の場合のみならず、他の自然言語の研究からもその妥当性についての疑義が表明されるようになってから久しい。本年度は、すでに述べたような日本語の助詞・助動詞の研究から、意味論と語用論の関係についてのメタ理論的考察を行った。自然言語の意味論がどのような形をとるべきかの考察は、具体的な言語を対象とする意味記述の構成と無関係ではありえない以上、次年度もまたこの考察は引き続きなされる予定である。 1・2で述べたような考察にいずれに関しても、関連分野との研究者との情報交換・議論を数度にわたって行った。
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