研究課題
一般研究(B)
実際に閲覧調査をすること自体、多くの時間が必要であったことに加え、各紙とも予想以上に美術関係記事が頻出し、また広く文芸一般、建築、博覧会開催、あるいは文部、文化行政についても、当時の美術事象との関連で密接であることから、データシートに採録すべき記事が格段に広範囲になっていったためである。そのため、個別的な研究をすすめる以前に、膨大な記事の取り扱いについて、データシートのフォーマットの改良を含め、どこまでの記事を資料とするかについて、たびたび意見交換をかさねることとなり、これに多くの時間をついやすことになった。こうして研究方法の若干の変更と表面化した課題について、次年度からは調査と並行して検討をかさね、おおむね各参加研究員の合意のもとに収集された資料の一部が、この報告書に掲載した明治40年の記事一覧である。この一覧を見ただけでも、各紙から採録した記事のデータの多様であることがわかるが、それは美術雑誌とは異なり、政治、社会、文化全般を対象とする新聞のなかの美術というひとつの分野の位置づけを反映したものだと考えられる。言いかえれば、たとえば、文化行政のなかの美術、社会や文芸全般と美術との関係、さらに美術家によるおびただしい数の挿絵など、これまで近代日本美術史研究がとりあげることのなかったあらたな研究課題がうかびあがってきたのである。このことが今後の諸新聞における美術関係記事の調査研究を継続していく上での課題として加わり、同時に当時の美術のあり方を理解する上で貴重な視点をあたえてくれるものと確信している。