研究概要 |
国立西洋美術館にはカロの版画の大半が所蔵されている。本研究の目的はこの所蔵作品の調査研究を一方の柱とし,他方,カロを1600年頃の国際マニエリスムという汎ヨ-ロッパ的視点からとらえ直そうとするものであるが,所蔵作品の調査については比較的順調に進み,また,各人の研究についてもカロを視野に入れつつより広い視点から16〜18世紀の各派の美術に関する研究が公表された。調査研究についていえば,リュ-ルのカタログを参照しながら所蔵される個々の作品の刷りの状態やステ-トを確認すると同時に,それぞれのモティ-フの影響関係について検討を加えていった。また,すべての作品の写真をとり,それらは基本デ-タとして国立西洋美術館年報に目録化した。 このような作品自体についての研究とは別に,各人は個別に研究を進めた。カロと同時代の画家カラヴァッジオやヴァン・ダイクについての研究が行なわれ(中村,雪山),また,ヴェロ-ネ-ゼ,ティエポロといったイタリアの画家についての作品研究も進められた(越川)。また,これまでカロ芸術の中で必ずしも正当な評価の対象とはならなかった風景表現に関していえば,カロにも少なからぬ影響を与えたネ-デルラントの風景表現についての研究が行なわれた(幸福)。また、平成4年度の自主企画展としてカロの素描を含む「フランス近世素描展」が企画され、その申備のためパリ国立美術学校との交渉も開始された(高橋)。 本年は直接カロを論じようとするような研究を公にすることはできなかったものの、作品自体の調査は大きく近展し、カロの研究にとっても指標となるような研究が各研究分担者によってなされたことは意義深いものであったと思われる。
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