研究概要 |
「事態構造論」とは,“心理学的事態の論理的構造を分析して,その事態に含まれている論理的特性がどのような特質をもっているかを考察し,行動を構造的に理解するとともに行動的理論模型を構成するための基礎資料を提供しようとする研究上の立場"のことをいう。本研究は「対人関係」(interpersonal relations)とよばれている複雑な社会的交互作用事態の心理学的構造を把握してその構造特性を相互に比較可能にするために,対人関係の特質が量的に比較可能な空間を事態構造論的に構成することを最終目標とする。このために,本研究では,次の4段階の研究が計画されている。すなわち,第1段階として,ゲ-ム論的社会動機模型を基盤とすれば対人関係を3次元空間上のベクトルで表現することが可能であるという発想に基づいて,個々の対人関係に関して基礎となる数値的資料さえ得られればベクトル表現を可能にする独特の分析技法を開発することが試みられる。次に,第2段階として,同じく社会動機模型を基盤とした「IFーTHEN法」とよばれる申請者が開発した行動的検査法を用いて実際の各種の対人関係に関する上記の必要基礎資料を求める実験を実施する。ついで,第3段階として,この資料に分析技法を適用して個々の対人関係をベクトル表現する。第4段階として,個々のベクトルの集積から対人関係を示すひとつの交互作用空間をより明確に構成するための考察と空間自体の構造特性に関する考察がなされる。本年度は,第1段階の表現技法の開発の理論的側面に中心がおかれたが,分析技法の基本形はすでに完成し,さらに,第2段階のIFーTHEN法による実験も計画され,基礎資料の収集がすでになされた。資料の細部の分析と,これに基づくベクトル空間の構成の問題など,第3段階以降の問題は次年度の作業として残されたが,現時点までのところ,研究計画はきわめて順調である。
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