全盲の男性10名(年齢:17歳〜22歳)、中途失明の男性10名(年齢:39歳〜51歳)および晴眼の男性10名(年齢:21歳〜27歳)の歩容の特徴について比較検討した。モ-ションアナライザ-を用いて踵接地時と爪先離地時における頭部屈曲角度と股関節角度、膝関節角度、足関節角度を測定した。また、歩行距離因子として歩幅率とストライド率を、歩行時間因子として1歩行周期における立脚期と遊脚期の割合を算出した。筋電図は表面電極法を用いて、被検者の右下肢の前脛骨筋、腓腹筋、大腿直筋および大腿二頭筋から導出した。その結果、晴眼者や中途失明者と比較して全盲者は、頭部を有意に屈曲させた歩行姿勢で歩いていることがわかった。また、全盲者は踵接地時の足関節の背屈が有意に小さく、爪先離地時では有意に底屈が小さくなることがわかった。さらに、晴眼者や中途失明者と比べて全盲者は、歩幅率とストライド率が小さく、1歩行周期における立脚期の割合が高いという結果が得られた。つまり、全盲者は踵接地時に足関節の背屈を小さくして、足底全体で接地していることがわかった。また、爪先離地時には、足関節の底屈を小さくし、後方への蹴り出しを抑え、安全な歩行を保持するために歩幅を短くして歩くことがわかった。単独歩行中の全盲者に特徴的な筋活動パタ-ンとして、前脛骨筋の持続的な活動と振幅の小さい腓腹筋の活動が観察された。一方、白杖歩行や介助歩行では、腓腹筋の振幅が大きくなる傾向が認められた。つまり、歩行の安全性が高くなると爪先離地時における足部の蹴りが出現するのではないかと推察される。以上の結果から、単独歩行中に観察された全盲者の歩容は、安定した歩行姿勢を保ち、安全な歩行を行うために環境に適応しようとする歩行であると考えられる。また、その歩容は、歩行様式によって変化することがわかった。
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