研究概要 |
様々なタイプの症例多数について,従来の知見を確認する結果も種々得られているが,非常にまれな症例の検討から,これまで報告されていない新して知見も得られている。 1)右中心前回下部梗塞後,何ら発話の障害を示さなかった症例が,その後生じた左中心前回下部の梗塞により,重度で永続する語唖症状を呈したことから,左中心前回下部と発話機能との関係が明らかにされた。 2)右半卵円中心病変により左手の失行と病的把握がみられた症例の分析から,半球内離断と脳染外での半球間離断が同時に生じた可能性が論じられた。 3)右半球辺線葉後端部損傷により,道順障害を示した症例の検討の結果,言語素材の記憶は保たれているのに,空間記憶が障害されていることが明らかにされ,記憶に関する左右半球間の機能分化が論じられた。 4)左視床前部限局梗塞性病変により,口頭言語の障害がごく軽度であるにもかかわらず,顕著な読み書きの障害を呈した右利き2症例について,読み書き障害の内容と合併症状を神経心理学的に詳細に検討した。2症例はいずれも読み書き障害に加えて,軽度の呼称障害と記銘力障害とを伴っていた。X線CT,MRIによる病巣は,左視床のpolar artery,paramedian artenyの流域に限局していたが,1例で施行したPETによる病変は,左視床以外に左頭頂葉,側頭葉にも及んでいた。同様の視床病変を持つ文献例との比較から,本2例の場合,記銘力障害は視床病変の一次性障害と考えられるが,読み書き障害は左頭頂,側頭葉の二次性病変の可能性が示唆された。 5)記憶に関与していることが明らかな海馬の主要な出力線維である脳らの切断例2例が把握されたので,記憶障害と中心に神経心理学的検討を進めている。
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