本研究は、これまで研究されることのなかった学生時代の意識と教師になった現在の意識の変化を、パネル調査で得られたデータを使用して分析するものである。本研究は将来パネル調査を実施することを目的として、1984年に開始した。具体的には、1984年に茨城大学の教育学部生に対して意識調査を実施し、1986年にも調査を実施し、初期のサンプルと数を1024とした。その後、1990年10月から卒業生が実際に教職についているかどうかの確認作業を実施し、756人が教職についていることが明らかにされた。パネル調査は郵送調査によってなされ、1991年1月に調査票を発送した。最終的に回収された調査票は592となり、そのなかで1名を除いた591名分が学生時代のデータと結合することができた。調査では、学生時代と現在で同じ質問項目が加えられており、それらの項目を分析することによって、同一個人内における意識の変化が明らかにされる。たとえば良い教師であるための条件の変化についてみると、次のようなことが明らかにされた。重要度が上昇した項目としては「事務的能力にすぐれること」「絵や歌がうまいこと」「ユーモアがあること」などであり、反対に重要度が下降した項目には「目上の人に従順なこと」「人の世話をすすんでやること」がある。こうした一連の変化は、学生時代の理想的な教師像から現実的な教師像への移行としてとらえられる。同様に教職認知の変化についてみると、比率が上昇した項目としては「天性の人柄の魅力で勝負する」「教育指導の技術者になる必要がある」「自分の考えで仕事を進められる」であり、反対に下降した項目は「人の手本となれる人格を求められる」「自分の考えで仕事を進められる」「高度の専門的知識を要する」「強い使命感を必要とする」であることが明らかにされた。
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