今年度は以下の三種類の調査を行った。すなわち、(1)全国各地約10ケ所の「水子供養」実施寺院における聴き取り調査、(2)全国の「水子供養」実施寺院(約500ケ寺)および「水子供養」を実施している心霊家(約150名)を対象にしたアンケ-ト調査、(3)京都市内の全寺院(約1600ケ寺)に、「水子供養」実施の有無等について尋ねたハガキによるアンケ-ト調査。これらの調査によって新たに得られた知見をまとめてみると次のようになる(なお(2)および(3)は現在集計中なので、以下の「まとめ」はあくまで暫定的なものであり、そこには今後の研究のための仮説とよぶべきものも含まれている)。(1)昭和50年代にブ-ムとなった「水子供養」は現代、社会現象としてさほど目立つものではないが、それは「水子供養」という行動パタンが社会的に支持されなくなってきたというより、このパタンが現代日本の文化の一項目として定着してきたことを示す。(2)寺院による「水子供養」には大きく分けて2つのタイプのものがある。すなわち寺檀関係の枠内において行われるものと既成の寺檀関係から離れたところで行われるもの(すなわち、寺院側からいえばビジネスとしての「水子供養」)の2つである。同じ「水子供養」でも前者と後者では、それに関わる寺院側の意識、「水子供養」を依頼する依頼者側の動機にはかなりの差異があることが予想される。(3)心霊家による「水子供養」と寺院による「ビジネスとしての水子供養」とはさまざまな共通点をもつが、依頼者に対して行われる説明のレトリックには若干の相違もある。以上の3点のうち、(2)、(3)の詳細については今後の研究に委ねることにしたい。
|