「老い」の比較文化論的研究ー日本を中心としてー

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02451044
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 中村 完 東北大学, 文学部, 教授 (20004054)
• 研究分担者: 吉田 忠 東北大学, 文学部・日本文化研究施設, 教授 (60004058) ; 佐藤 勉 東北大学, 文学部, 教授 (10004037) ; 塚本 啓祥 東京大学, 文学部, 教授 (30062772) ; 中嶋 隆蔵 東北大学, 文学部, 教授 (10004061) ; 上妻 精 東北大学, 文学部, 教授 (10054298)
• キーワード: 老い / 老人問題 / 老人福祉 / 中国 / 台湾 / シンガポ-ル / 日本 / 比較文化

研究概要

合同の研究会における報告と討論を通じ、次のような知見が得られた。(1)現代中国社会においては、伝統的な敬老思想が存在する一方で、急速な社会変化が進行し、特に「一人っ子」政築によって家族構造に著しい変化が生じた結果、老人の占める社会的地位が大きく変動し、老年層と若年層の内の力関係も変化してきている。その結果、伝統的イデオロギ-としての敬老思想と実際の老人の地位との間に矛盾が生じ、なお解決されていないのが現状である(2)社会主義政策をかかげる中国政府は、福祉の遅れをカバ-するために、伝統的な敬老思想を容認し、老人福祉を家族にゆだねているのが現状である。(3)他の中国系社会、例えば台湾やシンガポ-ルにおいては、政府が公然と儒教精神を宣伝し、儒教的な立場に立つ敬老思想を現在でも支持している。社会的にも政治的にも敬老思想は存在しているのであるが、産業の高度化・経済の国際化に伴って、老人問題も複雑化している。(4)しかし、台湾では、老人の世話は兄弟の均等分担が通常であり、兄弟が世界に散在する場合には、両親が国際的に「タライ回し」にされるのであるが、両親もそれをいとわない。ただし、アメリカで子供と同居するような場合、両親の異文化適応がうまくいかないなど、問題点も見られる。(5)中国人社会における「老い」と日本の事例を比較し、その違いを検討した結果、文化の違いが、両社会における老人の地位や扱いに大きな違いをもたらしていることが明らかとなった。今後は、この文化的相違の意義を更に追求していく予定である。

研究成果

• [文献書誌] 大橋 英寿: "変性意識(ASC)とコスモロジ-ーシャ-マニズムのトランスをめぐってー" 催眠学研究. 37. (1992)
• [文献書誌] 佐藤 伸宏: "晩年の中原中也" 『中原中也 魂とリズム』(有精堂). 114-124 (1992)
• [文献書誌] 上妻精: "ドイツ観念論とニヒリズム" ドイツ観念論講座. 1. (1992)
• [文献書誌] 中村 完: "韓国語ソウル方言の世代差について" 学術月報. 44ー4. 20-26 (1991)
• [文献書誌] 磯田 煕文: "『Munimatalamkara』に説かれる有情世間・器世界" 『インド思想における人間観』. 487-510 (1991)
• [文献書誌] 菊田 茂男: "『源氏物語』の中の生活" 学燈. 44ー10. 2-16 (1991)
• [文献書誌] 高橋 美由紀: "中世における神宮宗廟観の成立と展開" 源了圓・玉懸博之編『国家と宗教』. 76-95 (1992)
• [文献書誌] 若尾 政希: "近世初期における「国家」と「仏法」ー「太平記読み」研究序説ー" 東北大学日本文化研究所研究報告. (1992)
• [文献書誌] 山田 勝芳: "甘谷漢簡に関する一考察" 東北大学教養部記要. 56. 131-150 (1991)
• [文献書誌] 塚本 啓祥: "「Amaravati仏教碑銘」" 『成田山仏教研究所紀要特別号』. 1-97 (1992)
• [文献書誌] 村上 真完: "般若経類の空思想とウパニシャット" 『真野龍海博士頌寿記念論集』. 1-39 (1992)
• [文献書誌] 山田 俊: "碧虚子・陳景元の思想" 集刊東洋学. 65. 38-56 (1991)
• [文献書誌] 宮坂 和男: "テクスト理解と他者" 文化. 55. 16-32 (1991)
• [文献書誌] 大橋 英寿: "『沖縄の人と心』(第一章「長寿社会の死生観」)" 沖縄タイムス社, (1992)
• [文献書誌] 田中 英道: "レオナルド・ダ・ヴィンチ" 構談社, 426 (1992)