研究課題
これまで東アジア三国(中国・朝鮮・日本)の伝統社会における指導者像の理念・実態の解明及びその三国間の比較研究にあたってきた。同じ儒教文化圏とは言え、指導者像は地域的にも一様ではなく、また時代とともに変貎・変容する。1.中国の場合、大胆に割り切っていえば、戦国期以後、社会・政治状況や黄老思想から儒教へ、さらに道教・仏教の流行といった思想の変化と対応し、賢者・長者などの豪傑型と称すべき指導者から、文化的素養を重視する文治型指導者への展開と約言できる。このような変化に対応し、歴史上特定人物のイメージが繰り返し再構成されてきた数多くの事例が指摘できる。2.朝鮮や渤海においても、この点では基本的に軌を一にしているが、特に渤海の場合、九世紀以降日本の中国文化圏からの離脱を契機として形成される日本蕃国観は、渤海指導者層の民族意識と自負心の昂揚とともに、独自の指導者像の模索を示すものとして位置づけられよう。3.中国や朝鮮とは全く対照的に、日本の場合は、中世以後武士社会の形成と結びつき、文治型と並んで豪傑型指導者像が強く求められるようになり、しかも、楠正成や豊臣秀吉の例に見られるように、武威を重視する傾向が顕著となる。4.指導者の理念像は、一般の理念同様、虚像意識の面を有するが、理念を真撃に追い求めた人々も決して数少なくなく、虚像とは言え、彼等は社会の指導者として現実に機能していた。
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