本研究は、東欧諸国の19世紀における地方自治制度を実態的に把握することを目的として、地方行政史に関する文献史料の収集とそのデ-タベ-ス化をはかるとともに、個別研究を報告する研究会の定期的開催によって共同研究をおこなうという方法ですすめられた。東欧諸国においては、地域による一定程度の違いはあるものの、総じて、19世紀の中頃に中世以来の地方自治制度が近代的な地方自治制度に改革された。その際、それまでの分権的な地方行政制度にかえて中央集権的な地方行政制度を導入しようとする中央権力に対し、地方自体では自らの伝統的自治権を守ろうとする抵抗がみられた。この過程は、また、地方権力が種々の民衆運動を統制できないことによってその自治権が侵食されいく過程でもあった。地方自治制度と民衆運動との密接な関係がこのようにして確認されたことによって、東欧の民族運動、農民運動、労働運動、さらには種々の儀礼を含む民衆生活などを研究するに際し、地方自治制度との関係をふまえる必要性があらためて認識された。東欧諸国で19世紀に導入された地方自治制度は、第二次世界大戦後まで続いた後、伝統的な力をある程度維持しつつも社会主義制度に移行された。今日、旧社会主義制度の崩壊にともなって東欧各国にみられるようになった地方自治には、法制においても地方の生活実態においても、この19世紀の制度の復活ととらえることができる。このような地方自治のレベルに着目して東欧諸国の変革の行方を検討することも、今後の重要な課題である。
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