本年も前二年に引き続いて資料の調査及びその整理研究を行った。その中で、平成四年秋期訓点語学会(大分文化会館)において「日光山天海蔵法華経についてー為字訓を中心にー」と題して口頭発表を行った。本書は高麗版本1288に訓点が書き込まれてゐるもので、十四世紀末から十五世紀初頭の訓点があり、その点でも貴重であるが、平安古点にあり近世日遠関係資料、宗淵関係資料にともに見出される為字に対する漢字訓がみられ、それによる為字和訓が見出される。中世資料としては、他に防府天満宮本巻一二にあるものと本書のほかは未紹介である。今後更にその発見が期待されるが、従来全く中世に途絶えてゐたものが見出されたのは重要である。防府天満宮本は検討が未了であるが、上記のごとき点もあり、これも貴重な資料である。日光山輪王寺所蔵本の中には、上記以外に、多くの装飾経に混じって、光明皇后筆と伝へるものがあり美術史家によれば、確かに光明皇后の雰囲気があると言はれるが、恐らくは院政期書写の本であり、詳細な訓点が施され返り点も一二から十、二十に及ぶものがあり、特異な訓読方式を持ってゐる。これについては十分な研究は未了であるが、興味ある資料である。一方に仮名書き本についても未紹介のものが知られ、この方面の研究を続けてゆく必要を強く感じた。研究補助金の年限は今年度までであるが、当初の予想通り、法華経資料は多量にあり、未調査のものが多い。当然のことながら、期間内に得た資料及び所在の知れたものにつき、引続き調査研究の必要を感じるので、続行する所在である。
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