研究概要 |
本研究は多量の資料の存在が予想される法華経訓点本その他の調査研究を目的とした。叡山文庫の諸蔵本・日光輪王寺蔵の諸本・佼成図書館の諸本をはじめ多くの図書館・文庫を訪問して法華経資料を調査した。但し、当初から予想されたこととはいへ、遺憾ながら調査を完了したとは言ひ難く、その目録などについては、将来取りまとめの約束をしておく。本研究中において特記すべきことを若干掲げる。まづ、宮内庁書陵部蔵白点剥落本は、写経は奈良期に遡り、訓点は平安後期である。この中には為字訓を和訓化したあとが見えることが指摘できるが、何より、本来は全体に白点が施されてゐたものが永徳二年1382補修の際洗ひ流されたことが惜しまれる。光線の微妙な具合により、そのあとを判読することもできるが、膨大な時間を要する作業になる。光学的に読み取る方法もあるやうだが、その実施の許可は得られなかつた。その具体的な提案はしてある。全体が解明されれば、平安後期のよい法華経資料とならう。日光山天海蔵本高麗版法華経は14,5世紀の訓点を持つ完本である。これは、中世期のもので、為字訓をもつものとして、防府天満宮本とともに貴重である。身延山文庫は未整理のため閲覧が叶はない。佼成図書館には、完本端本とりどり多くの法華経があるが、仮名書き刊本八帖本は刊記を欠くが、中田祝夫氏蔵の摩尼園蔵版本との比較により、同版後刷りであることが判明した。他にも各巻末に各品の内容を題にした釈経和歌を有する仮名書き本が所蔵されてをり、興味あるものである。その他、法華経には、全体音読で仮名書きしたもの(熊本本妙寺本)や、左右に音訓を併記した両点本、科註本の訓点、更にその所持者の私訓の書き入れ等々、種々の興味ある研究課題がある。本研究では、その訓読史の一端にふれたが、引続きこの研究を継続する予定である。
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