研究概要 |
1.宋代文人の実態についての個別的研究。 その成果の一端を「詩にみる蘇東坡の書論」と題して公表した(「書道研究」4ー11)。これは蘇東坡の書道に関する見識を探ろうとすれば,その文章のみならず,詩にも眼を向けねばならぬことを実例を挙げつつ論じたもの,宋代文人における書道芸術と文学との関係に新しい観点を提起している。 2.宋詩の本質の究明。 詩の本質を論じようとすれば,必然的に近縁関係にある詩との関係が問題となる。この問題に対する新しい見解を「詩と詞ー中国における詩の正統意識」と題して公表した(片野達郎編「正統と異端」所収,角川書店1990)。すなわち,詩と詞とはともに“歌辞に由来する抒情的韻文"であるのに,伝統的には一貫して別個の様式として区別されていたのは何故かーこの問題を究明しようとすれば,言語表現のかたちなどの問題を越えて,様式に対する認識の問題に踏みこむべきであり、その士大夫の理念とのかかわりに眼を向けるならば,その間の差異はおのずから明らかとなるであろう。 3.宋詞関係文献(詞籍)の調査研究。 宋詞は唐詩などに比して日本ではあまり親しまれなかったので,日本における詞籍の所蔵はみるべきものがないように考えられて来たが,意外にそうではないことがしだいに明らかになって来た。1990年11月,江西省饒で開催された“辛棄疾国際学術会議"において,日本にのみ伝存する詞籍善本の調査研究の一部を公表した(「関于南昌彭氏旧蔵〈〈南詞〉〉及〈〈汲古閣未刻詞〉〉」)。なお前年“李清照国際学術討論会"において発表した「関于日本伝存両種〈〈漱玉詞〉〉」は近刊の「詞学」第9輯(葉東師範大学刊)に掲載される予定である。
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