1.宋代文人についての個別的研究 前年度に北宋の代表的文人、蘇軾についての論考を公表したのに続き本年度は南宋の代表的文人、姜〓についての研究をまとめ、「姜白石詞序説」と題して公表した。姜〓についての研究は従来わが国には蓄積が極めて乏しいので、まず基本的な資料と問題点の整理をした上で、更に北宋と南宋の間における文人階層の変容および詞の発展の双方にわたって姜〓の位置づけを明確にした。特に周済の「宋四家詞選」における周邦彦・辛棄疾・王沂孫・呉文英の相互関係とその中における姜〓の位置を明確にしたことは、従来中国の専も説き及ばなかったところであり今後の詞学研究に及ぼす影響は小さくない と確信する。 2.宋末元初の文人の人生観と国家観の研究 南宋の滅亡に際し、両朝にまたがって生きた文人が、宋人とされるか元人とされるかは極めて興味深い問題を含んでいる。従来あまり注意されていなかったが、それは生卒年にかかわりなく、その人が宋朝の滅亡と元朝の支配にどのように対処して生きたかと対応しているからである。すなわちその人の人生観および国家観と深くかかわるのであり、文人が人間類型としていかなる存在であるかの少なくともある一面が端的に示されることになっている。『四庫提要』においては元の官位を受けなかった人は宋の遺民として尊重し、受けた人は元人として非難の口吻を示されており、従来はとかくそのような見方が一般的であった。しかしさまざまな資料を検討すれば、文人という存在にとってはそれは全く見当違いな評価であることが明らかとなる。本年度はそのことをまとめ、京都大学人文科学研究所における研究会で発表した(1991年1月18日)。近く論文として改めて公表する予定である。
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