研究概要 |
19世紀後半のロシア社会の激変とそれに伴なう「社会的心性」の変化を文学の側から検証するというのが本研究の目的であるが、本年は主として《Otechestvennye Zapiski》(祖国の記録)という19世紀を代表する雑誌を中心に調査を行なった。 当初《祖国の記録》はクラエフスキイの編集によっていて、西欧派の立場を鮮明にし、文学的には40年代の「自然派」の文学に光をあてた。レ-ルモントフやドストエフスキイをはじめとする多くの作家が登場し発行部数も8000部を数えた。1848年にはじまる反動期,1861年の農奴解放の時期には時代動向を巧みにとらえることができず、部数は激減したが、Sovremennik廃刊後ネクラ-ソフがこの雑誌の編集を1867年に引き受け、明確な左派的主張をもった雑誌に作り変え営業的にも成功を改めた。 当時のロシアでは、ほとんどの作品がまず雑誌に発表され、ついで単行本化されるのが常であったから、雑誌のもつ力は非常に強く、編集長は独栽的な力をふるった。前期のクラエフスキイ,後期のネクラ-ソフと作家たちとの関係は、同時に検閲者たる国家をその背景としてもっていた。社会生活の諸粗を具体的に反映する雑誌ジャ-ナリズムと社会生活の記録者である作家たちの出会いの中に当時の人々の生きた「社会的心性」を浮かび上らせることができる。その実際のあり方を個別論文にまとめて本年度より発表しつつある。
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