研究課題/領域番号 |
02451063
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川端 香男里 東京大学, 文学部, 教授 (50000592)
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研究分担者 |
三谷 恵子 東京大学, 文学部, 助手 (10229726)
金沢 美知子 放送大学, 助教授 (60143343)
栗原 成郎 東京大学, 文学部, 教授 (70012359)
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キーワード | 農奴解放 / インテリゲンチア / ナロ-ドニキ / 民衆的心性 / 左翼ジャ-ナリズム / 大衆ジャ-ナリズム |
研究概要 |
1.本年度の研究で得た第一の知見は、本年度購入の雑誌《Russkoe Sloro》(ロシアの言葉)のロシア思想史・ジャ-ナリズム史の上で果した役割の重要さである。日本でまったく研究・紹介のなかったこの雑誌は、農奴解放前後のロシアの社会的激動をよく反映しており、穏健派の立場から左翼的立場へと転ずるインテリゲンチアの動向と一体になるが、同じ左翼ジャ-ナリズムに属する雑誌《Sovremennik》(同時代人)とロシア改革の路線についての激しい論争を展開する。左翼ジャ-ナリズムはドストエフスキイ,レスコ-ブなど自陣営に属さない作家に激しい攻撃を行ったが、同時にきわめて激しい内ゲバ的論争を自陣営内で展開したことがこの雑誌の検討によってわかって来た。 2.また本年度に購入した学術歴史雑誌《Zhivaiia Starina》.大衆誌ー《Rodina》は、インテリゲンチアとはまったく別の心的レベルにある民衆たちの実像の分析についての手がかりを与えてくれたが、この点については民族学・言語学の立場からのより具体的な研究が今後の課題となる。 3.今年度研究の中心にすえたチェ-ホフについては、その出身の基盤(祖父が農奴、父が小商人)からみてインテリゲンチア階層とはまったく異なる心性がどのように培われて行ったかということに視点をおいた。笑い話やユ-モラスな小ばなしで大衆にアッピ-ルした雑誌、いわば大衆ジャ-ナリズムに出発点を見出したチェ-ホフは、左翼運動がナロ-ドニキ運動の崩壊ののち過激なテロリズムに転じた時代に、民衆に根ざした理性的な立場をとり続けた。既存の大文学の伝説にほとんど影響を受けることのなかったチェ-ホフのユニ-クさを、民衆的心性、大衆ジャ-ナリズムとのつながりの中でとらえることができた。
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