研究概要 |
平成2年度の研究においては,特に日本語の主題構文とアイヌ語の抱合現象の解明に進展が見られた。これらの領域は,モジュ-ル的文法理論の開発において,(1)意味ー統語ー語用ー機能モジュ-ルの相間関係および,(2)文法モジュ-ル内の下位モジュ-ルである統語モジュ-ルと語彙モジュ-ルの関係を見極めるうえで重要な役割を果たす。 日本語の主題構文については,特に語用論レベルでの解釈が現在の研究では主流となっているが、本研究によって同構文の観念機能的側面が明らかになった。つまり,日本語の主題構文は,だだ単に旧情報を表わすとか,話者と聞き手によって共有されている情報を示すという語用論的側面ばかりでなく,より認識論的な機能,つまり事象の把握形式のひとつのあり方を表わすということを明確にした。主題構文と非主題文とは,この点において対立し,前者は事象を二分し,つまり二項的に把握する形式であり,二分されたものが,言語的には主題及び述題として構造化されるのであり,一方後者は事象を一項的に把握する形式である。このような根本的な観念機能の違いが,それぞれの構文の語用論的およびテイスト機能的なことがらと相関していると考えられる。このような主題構文の総合的な観点からの研究において初めて,なぜ「は」という助詞には特定の語用的機能があり,他の助詞ではないのか,というような疑問が解決できるのである。 アイヌ語の抱合現象の研究からは,統語モジュ-ルと語彙モジュ-ルの関係が語形成の観点から解明する手がかりが得られた。特に現在問題視されている,抱合現象は語彙的な現象であるのか,それとも統語的なものであるのかという点に関して,前者の立場を支持する結論が見られ,統語部門における語形成にはかなりの制限が働いていると想定される。
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